北京滞在記 9月 その6

9月26日

  朝、双楡樹早市に買いだし。猫の耳たぶ豆、白インゲン、カボチャ、白くて太い茎の野菜、桃、ウドンを購入。猫耳朶豆は、平べったく少し捻れた大きめのサヤエンドウ状で周りが紫色をしている。茹でたがあまり美味しくはない。掃除の女性に訊くと細く切って炒めるとのこと。白インゲンは、莢は柔らかくて美味しい。

 博物館にでも出かけようと話していたら雨が降り出したので、外出は中止。間違えた講義日を補講で調整する手配をして、講義日程表を修正。演習は1回繰り上がったので幕末開港のレジュメを作成。

 新聞は、国連強化が世界平和への鍵と、中国の国連中心主義をアピールしてアメリカを牽制する記事がトップ。農村金融の改革が農民所得の向上には不可欠との記事は、全国に4万ほどある信用協同組合を、株式組織や連合組織に改組して強化する必要性を説く。中国農業発展銀行も農村に根付いた活動をするように業務内容を改善すべしと。農村と農業の改革・改善は、新執行部も力を入れている課題だ。

 アメリカの企業へのアンケートでは、254企業から回答があり、10%が中国での事業は大いに儲かると答え、65%が儲かっていると答え、残り25%のうちの91%が3年以内に儲かるようになると答えた。80%以上の企業が、今後、業務を拡大する意向を示した。不安要因としては、人民元の切り上げ、金融機関の弱体、財政の悪化、社会保障ファンドの不足と指摘したと伝えている。アメリカ企業ばかりでなく外資系企業は、かなり儲けているようだ。この勢いが、外での「中国脅威論」の原因のひとつになっているのは間違いない。

 外資系企業については、一部の企業が労働組合をシャッタウトしていることを批判する記事もあった。約40万の外資系企業のうちで、5分の1程度しか労働組合を持たず、200万の私企業のうちの40%でしか組合は活動していない。外資系と私企業における労働組合結成を求める中国労働組合連合の議長の発言が載っている。

 昼食は冷やしウドン。双楡樹早市では、ウドンを手打ちして売っている。伸ばして折り畳むところまでは日本と同じだが、切る前に畳んだものを引っ張って薄く伸ばす。そしてさらに、細く切ってからも、左手に絡めながら右手で握るようにしてさらに細くする。かなり粘り気の強い手打ち麺だ。茹でると、極めて腰の強い美味しいウドンになった。1元で二人分とは安い。

 午後、手紙を出してから双安商場前のスーパー利客隆(りかろん)にカッターナイフを買いに行く。雨はときどき激しく降る。2階で接着剤と小筆、中国産ブランディも買う。1階ではキュウリ、椎茸、ピーマン、牛乳、殻付きピーナッツ、かりんとう、切り餡。かりんとうは、すごく堅い。中国人は歯が丈夫に違いない。 

 ホテルの前庭にはアドバルーンが揚がって世界中医薬学会連合会結成を祝っている。ここで、結成大会が開かれているらしい。ここにはパレスという建物があって、大きな集会や会食ができる。先日は、老教授会の集会をやっていた。退職した大学教授達の集まりなのだろう。こういうのは日本にはなさそうだ。

 夜はコロッケほか。ここのジャガイモのせいか、水っぽいコロッケになった。恵子は日本から持ってきたパン粉も少し使い勝手がちがうという。風土は、細かいところで微妙な変化をもたらすらしい。ジャガイモについては、種類の問題だろう。市場では、1種類しか見かけない。ドイツほどでなくていいが、せめて日本程度のバラエティがある方が良かろう。このジャガイモでは、コロッケが流行らないのもうなずける。サツマイモにしても、もっと多品種化したら良いと思う。世界第1のサツマイモ生産国ではあるが、澱粉加工用ばかりでなく、食品としての用途開拓は可能だ。農業の発展可能性が問題になっているが、イモ類の多品種化、多用途化を図るのもひとつの道ではないか。

 顔真卿の「龍」の字の練習を始める。凧用の字だ。

 

9月27日

 7時過ぎにタクシーを拾って出かけたが、道路混雑で前門の観光バス乗り場に着いたのは8:15。潭柘寺などへ行く第7路線に乗ろうとしたが、没有という。表示を見ると連休と祝祭日のみの運行になっている。「歩き方」には土日とあったが、変わったらしい。方針を変更して、長城・明陵へのバスに乗る(@50元)。

 最初は、居庸関長城(@40元)。お月見に来たところだ。昼間は初めてで、少し西長城に登る。反転して東長城への橋まで歩く。東長城は、堀を隔てて連なり、趣がある。次が八達嶺だが、上の駐車場ではなく下に停まった。上に歩くと2000年とは様変わりで驚いた。立ち並ぶ露店が小綺麗な常設店になっている。昼食をジャージャン麺と炒飯、ビールで済ます。麺飯が各15元だが、ビールは大瓶が40元でまたビックリ。メニューを見ないで頼んだのが運の尽き。麺飯の味は最低、ビールは高いで散々だ。

 下って熊楽園に入る(無料)。月の輪のある黒熊だが、日本の月の輪熊とはちょっとちがって、鼻が少し長い。3箇所の囲いに居てタワーに登っているのもいる。ここで熊に会えるとは思っていなかったので感激。

 次は明十三陵のひとつ、長陵。長陵博物館になっている(@45元)。門から3つの建物が直線に並んでいる。ひとつに、墓の主、永楽帝のブロンズ。明銭の永楽通宝でお馴染みの皇帝だ。奥に円墳状の墓山がある。手間の建物には明の初代皇帝の石碑がある。かつては木彫りだったのを、清の乾隆帝が石彫りに直したとのこと。

 続いて明の定陵。入場料は60元と高い。地下宮殿があるので高いのか?ここで軍資金が尽きて入場不能になる。第7路線に乗るつもりで350元程度しか持ってこなかったのがまずかった。入口から中を覗くだけ。駐車場脇の大きな土産店の玉のコレクションと加工実演は面白かった。

 ここを最後に前門ターミナルに戻る。

 天安門広場に国慶節の飾り付けを見に行く。山水や長城をかたどった飾りがライトアップされていて綺麗だ。3つの代表を学習し実践しようとの幕。噴水も変化が多くて楽しめる。

 天安門西駅から地下鉄に乗り、2線に乗り換えて西直門へ出る。そこからバスで農業科学院まで来て、ホテルスーパーでビールを買って帰室。

 マオタイビール大瓶10元は少し高いが、香りが良かった。あり合わせで夕食。なかなかの強行軍だった。

 

9月28日

 朝、早起きして凧用の絹布に「龍」を書いた。顔真卿流のつもりだが、縦80cm75cmの六角だから、すこし間があきすぎたようだ。

  人民大学方面に散歩。大学もホテルも道路沿いの花壇も、並木の根方も、菊・サルビア・マーガレットなどの鉢植えで綺麗に飾られている。国慶節祝賀のデコレ−ションだ。外国語大学や農業科学院もおもいおもいに正門付近を飾っている。昔、日本に来た中国人が鉢植えを塀際に並べている日本の家を見て、よく盗まれないですねと感心した話を聞いたが、いまやこっちが感心する番だ。可憐な小菊の鉢は持っていきたくなるほど綺麗。

  双楡樹早市で黄ニラ、カリフラワー、枝豆、うどん、饅頭(@0.5元)を買う。ロバが小玉西瓜や梨を牽いて3頭来ていたが、7時前には急いで帰っていった。市内立ち入りに時間制限があるのかもしれない。

  今日は、107日(火)の授業の振り替え日で、学童・生徒たちは学校に向かっている。大人達も仕事場へ行くようだ。昨日、月曜日の分を振り替えて、1日から1週間の大型連休にして建国54周年を祝う。

   9:30の車でセンターへ。2年生が1017日に修士論文のテーマと日本留学中の指導教員を決めることになったので、相談に乗ってほしいという。木曜日に間違って講義をしたので1回分余裕があるので、先日に続いての相談会。

  帰室して恵子の作る炒醤麺で昼食。なかなかの出来。留守中に、旅行社の賈さんが敦煌行き航空券を持ってきてくれて、現地の旅行社の人を紹介してくれた。

   2:00に宋先生が航空券の手配に来てくださったので北門外の発券場で瀋陽往復を購入、往路470元、帰路620元。なぜか帰路は割引にならない。宋先生に部屋に来ていただいて、2年生の留学について若干の意見をお伝えし、あとは、中国事情について話を伺う。路上の物乞いについては、10月から、北京市が予算を計上して一時収容・帰郷支援を行うことになったそうだ。人民公社時代にはなくなっていた物乞いが、改革開放後、再び出現したとのこと。ゴミ問題では、再生可能なゴミは、民間人が回収してリサイクルするシステムが昔から動いていて、今もそのようになっているとのこと。再生不能ゴミは、北京市が焼却する。

  凧作りに必要なボンドを双安商場に買いに出る。セメダイン型の接着剤を買う。ついでに蛤、ステーキ肉、杏仁サラダなどを購入。舌平目のムニエルで夕食。

  凧 作りの準備をはじめたが、まだ完成には遠い。

  マオタイビール大瓶10元は少し高いが、香りが良かった。あり合わせで夕食。なかなかの強行軍だった。

 

9月29日

 朝は、理工大学へ歩いて焼き餅を買う。壺の中でナンのように焼く餅で、中身は、肉餡と小豆餡。おやきをつぶしたような形で、素朴な味わいが良い。北門へ回って3環沿いの道を歩くと、歩道はほぼレンガ舗装が完了し、土だけだった車道区分帯は、自行車(自転車)側は小灌木、自動車側は草花の植栽が済んで綺麗になっている。

  9:45に易先生と人民大学正門で待ち合わせて教室に向かう。日語系院生と日語から商学院へ進んだ院生が合計9人、うち男性は2人。『中国と日本の5000人−親和と反発−』を話す。ホモサピエンスの日本進出からは4万年くらいだし、縄文人からも1万数千年だから、5000年はあまり根拠はないが、ヒプシサーマル期の移動を念頭にしてアバウトに付けたタイトルだ。古代から現代までの日中関係史を親和と反発の観点からまとめた。結論は、歴史を見るポイントは、親和の時期が長いこと、反発が独自のアイデンティティを創ったこと、戦争の原因はいろいろだが近代戦争は資本主義下の不可避な出来事であったこと。今後の日中のあり方としては、短期的には相互の信頼関係強化、中期的には市場経済化に伴う利害対立の調整メカニズムの創出、長期的には資本主義にかわる持続可能な経済社会の創出が必要なことを語る。

 信頼関係については、毒ガス事件や団体買春事件で対日感情が、福岡一家殺害事件で対中感情が悪化している現状を問題にした。買春事件は、9月1617日に朱海開発地域に日本人男性観光客400人が団体で来て、ホテルで売春婦を買ったという話。おまけに、ホテルにロビーに日章旗を立てろと要求したようだ。売春は最古の女性の職業だし、現代中国でももちろん非合法だが素人を含めてかなりの売春があることは事実だ。ホテルにそれらしい電話もかかってくる。しかし、日本人の売春ツアーが東南アジアや韓国で問題になったことを忘れて、中国でもやるとは呆れ返る。9・18の直前に日章旗を掲げろと言うにいたっては言語道断だ。日本人は首相をはじめ集団的健忘症にかかっている。ボケているから責任能力は無いということか!

 人民元問題についての質問には、中国政府の対応は的確だという私見を披露。WTO加盟の国際収支への影響がまだ確定できないこと、銀行が不良債権を抱えて脆弱なことを理由に変動相場制を拒否することは、理解できる。聞きたいテーマがあればまた来ることを約束して講義は終了。

 易先生がご馳走してくださるというので、恵子を正門で待ってから燕山ホテルのビュッフェ昼食へ。ザリガニの炒めを初めて食べた。敦煌行きを話すと、地方は治安が悪いから注意するようにとのこと。携帯電話を貸してくださると言われたが、ケータイはまだ使ったこともないのでご辞退。ジャガイモは、やはり1種類しかなく、水っぽいとのこと。なかにはホクホクしたのもあるようだ。

 帰って昼寝をしてから凧作り。かたちは出来た。

 ステーキで早めの夕食。肉は堅いが味は野性的で美味しい。繊維の処理をすれば食べやすくなるだろう。

 6:15にホテル内の別のアパート前から国家専家局のバスでルフトハンザ商場隣の世紀劇場へ。専家局が、国慶節行事の一環として、外人教師達を甘粛敦煌芸術劇院の公演に招待してくれた。民族舞踊と民族音楽、最後に「絲路花雨」と題する舞踊劇。白の衣装を照明技術と白煙で色変化させながらの舞踊は見事。琴、縦笛、横笛、二胡、ハモニカ竹笛の音色も特徴的だ。歌唱はなかったが、もともと無いのだろうか。

 帰ってから、凧に吊り糸・張り糸を付けて完成させた。

 

9月30日

 武先生招聘問題がトラブル。うまくやれればいいが。9:30のバスでセンターへ。修士論文の相談を続ける。帰室、楊先生との電話連絡などで手間取り、空港バスはやめてタクシーで空港へ。思ったより道路は空いていて、早めに空港に着いた。手続き後、早餐レストランで牛肉と栗の炒め、豚肉と袋茸の炒め、ビールで昼食。15:20の東方航空機で敦煌へ向かう。

  ときどき黄河の茶色い流れを眼下にしながら2時間足らず飛んで銀川へ着陸。ゴビ砂漠の南端、内蒙古自治区の都市。ほぼ満席だった乗客のかなりの部分がここで降りた。我々は一旦機外へ出て空港でひとやすみ。5時半ころで、硯や古切手、ムートンなどを並べた売店に売り子はもういない。40分ほどして離陸、機内食が出た。白米にタケノコと羊肉の煮込みをのせたイスラム風の羊丼、バター無しパン、カステラ、ナツメなど。ナツメは、果肉が緑色で、北京で買ったものより上等らしく美味しかった。眼下には雲が多いが、ときに見えるのは不毛の大地。やがて蛇行する黄河支流が細い水流や池を残した氾濫原のような地形が見えて、村も点在するオアシス地域に入った。1時間半ほどの飛行で敦煌着。小さな空港に降りると、夕暮れの外郭には茶色の低い山並み。西の空は残照、三日月も光っている。

  甘粛敦煌假日旅行社の夏総経理と通訳が出迎えてくれて、ホンダの4駆で敦煌賓館へ。ロビーでスケジュールを決める。このとき、元から電話。武先生問題解決の知らせでひと安心。新館7階のツインルームに入る。綺麗な部屋で、浴衣風の寝間着も置いてある。

  市内へ出かけると、いたるところお土産物屋で、横丁に干し果物やシシカバブー、夜光杯や絵はがきの露店が並んでいる。若い女性の焼き肉店でシシカバブー小串4本とビールを味わう(9元)。横丁の横丁に入って麺類広場の小店で搓魚子を1椀食べる。手打ちウドンを細かく切って手で3〜4cmくらいの細い紡錘形に伸ばしたものを、茹でてから、野菜・肉と一緒に炒めた麺。小魚のようなかたちの麺なので魚子というのだろう。10元出したらお釣りを持ってこない。帰り際に催促したら5元くれた。看板には4元と書いてあったが、麺のゆで汁を二人分くれたためか?

  麻花も練って揚げている。種類が多いが、大型をひとつ買う(1元)。果物屋では、小さい桃を2元分買う。直径5cmくらいの初めて見る桃だが意外に美味しい。桃の原種か?さらに、白酒「敦煌」を30元で仕入れた。グラスがないので、夜光杯を購入(2つ50元)。大通りの大店で、日本語のうまい店員がいろいろ説明してくれた。夜光杯は、透明度が高いものほど上等であることが分かった。ワイングラス型、茶碗型、おちょこ型などでそれぞれ大小各サイズがある。おちょこ型大8個セットで3000元というのはさすがに透明感があって綺麗だった。部屋でさっそく夜光杯で「敦煌」を楽しむ。良い白酒だ。

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