日本商務 
現代日本企業はどのように経営されているのか

目次

監修のことば

はじめに

 序章 日本的経営とは?

日本的経営の評価/日本的経営―会社主義−/日本的経営−日本的生産方式−/競争と協調−政府の規制政策−/本書の課題

第一章 企業の歴史

1、経済と企業

経済の歴史/近代的企業の特徴/日本における企業の歴史

2、近代企業の歩み

個人企業から会社企業へ/株式会社の発達/日本における会社の誕生

3、現代の企業の特徴

大企業の時代/独占と独占形態/所有と経営の分離/日本の大企業

4、企業の国際化

国際化の進展/多国籍企業/外資導入の問題点/日本の外資導入と資本輸出

第二章 企業と法

1、近代社会における契約

近代の契約/契約の主体と対象/契約履行の保証/日本民法の特徴

2、商取引

日本民法の構成/物権と債権/売買・消費貸借・賃貸借/ 雇用・請負・委任/担保

3、手形と小切手

信用の授受/約束手形と為替手形/手形と当座勘定/小切手/手形割引/手形交換所

4、企業形態

新しい会社法/個人企業と組合/持分会社と社員/合名会社/合資会社/合同会社/特例有限会社/会社の組織変更

5、株式会社

株式会社とは/株式会社の設立/資本金と株式/株式会社の機関/役員などの損害賠償責任

6、企業の破産と再生

企業の倒産/破産法/民事再生法/会社更生法

7、独占禁止法と知的財産権法

市場経済のルール/独占禁止法/知的財産権/工業所有権法/著作権法/不正競争防止法

8、労働法

近代法と労働法/日本の労働法体系/労働基準法と労働組合法/社会保険制度/日本における労働法の今後の課題

第三章 企業の経営

1、経営戦略

企業経営の諸側面/経営戦略の型:短期的利潤最大化と長期的利潤安定化/企業の利潤:損益分岐点/規模の利益と範囲の利益/企業の合併・買収:M&A

2、意思決定と執行機構

株主と取締役・執行役/労使協議制/ラインとスタッフ/ 集権化と分権化/企業統治:コーポレート・ガバナンス

3、技術革新

イノベーションとは/商品のライフ・サイクル/近代日本の技術革新/戦後日本の技術革新/現代の技術革新/21世紀の技術革新の特徴

4、投資と資金調達

投資と資金/研究開発投資/設備投資/資金調達(自己資金と外部資金)/直接金融(株式・普通社債・新株予約権付社債)/間接金融/日本企業と金融機関/事業の拡大 合併・買収M&A

5、生産・品質管理

生産の管理/製品の設計/製品の生産システム/部品の調達システム/日本の生産管理の特徴/製品の品質管理/ TQCからTQMへ/ISO

6、人事労務管理

人事労務管理と生産システム/日本的生産システム/日本企業における人事労務管理/日本的生産システムと人事労務管理の関係

7、マーケティング

マーケティングとは/市場調査(マーケットリサーチ) 販売促進活動(セールス・プロモーション)/ 広告宣伝活動/在庫管理

8、経理と財務

企業会計/会計と簿記/複式簿記/仕訳/仕訳の具体例 計算書類/損益計算書/貸借対照表/株主資本等変動計算書/連結決算/財務分析/会計監査

9、企業の法務と社会的責任

企業の法務/社会的責任と企業価値/社会的責任の内容/ 雇用への対応/消費者への対応/環境への対応/社会貢献/コンプライアンス(法令遵守)/ディスクロージャー(情報開示)とアカウンタビリティ(説明責任)/知的財産管理

10、商業の経営

近代的商業のルーツ/近代化・大量生産の発達と商社の発展/流通革命と大規模小売業の発展/ニーズの多様化と業態の多様化

11、金融業の経営

金融業/日本の銀行/都市銀行と地方銀行/新たな形態の銀行/信託銀行/協同組織金融業/政府関係金融機関/貸金業など/証券業/商品先物取引業・商品投資業/保険業

12、運輸・通信・情報産業の経営

運輸業/海運業/鉄道業と自動車運送業/宅配便/航空運輸業/通信業/郵便/電信・電話/情報産業/インターネット関連産業

13、中小企業の経営

大企業と中小企業/中小企業の事業分野/中小企業問題と中小企業政策/零細企業問題

14、公企業の経営

公企業/工業化初期の公企業/資本主義確立期の公企業/ 戦時期の公企業/戦後の公企業/公企業の民営化

第四章 ケース・スタディ

1、トヨタ自動車

トヨタ発展の軌跡/トヨタ生産方式/サプライヤー・システム/日本のサプライヤー・システムのメリット

2、ソニー

ソニーの歴史/世界が認めた東通工/「SONY」誕生/世界への本格進出/新製品の開発/経営多角化/創業者とソニー

3、新日本製鉄

官営八幡製鉄所の操業と日本製鉄の発足/日本製鉄の分割と八幡製鉄・富士製鉄の発足/企業間競争の激化と新日本製鉄の発足/石油危機以降の新日本製鉄/21世紀初頭の日本の鉄鋼産業と新日本製鉄/日本経済における新日本製鉄の位置づけ

4、三菱東京UFJ銀行

東京三菱銀行(東京銀行・三菱銀行・東京三菱銀行の誕生)/UFJ銀行(三和銀行・東海銀行・UFJ銀行の誕生) /三菱東京UFJ銀行(東京三菱銀行とUFJ銀行の合併・ 巨大銀行合併の理由)

5、三井物産

旧三井物産の歴史/三井物産の設立と成長/資源・エネルギーの安定供給/機械と情報の総合プロデュース/食料など生活産業の展開

6、商船三井

商船三井の歴史/総合海運企業への成長/グローバリゼーションへの対応と経営革新/定期航路部門の再編とエネルギー輸送の強化

7、NTT

電信電話事業の誕生/日本電信電話公社/日本電信電話株式会社/変わり行く通信業界/電信から電話、電話からインターネットへ

8、セブン&アイホールディングス

イトーヨーカ堂/セブン-イレブン・ジャパン/セブン銀行/その他の多角化/ミレニアムリテイリンググループ /西武百貨店/そごう/セブン&アイホールディングス

終章 グローバル化と企業

グローバリゼーションの進展/グローバリゼーションと日本的経営/グローバリゼーションと日本企業/持続的発展に向かって

 

おわりに

参考文献

索引

 

監修のことば

 中国と日本の経済関係が、年々進展を続ける時代を迎えて、両国の国民、とくに若者たちが、相互理解を深めることは、ますます重要になってきている。この時に、日本商務を解説した教科書が、中日研究者の協力によって編纂されたことは、まことに時宜を得たものであり、われわれ監修者としても慶賀に堪えない。

 企業の歴史、企業と法、企業の経営、ケース・スタディの4編を軸とした構成は、日本的経営などと呼ばれる特徴を持つ日本の企業と企業環境を理解するために、適切なものである。

 監修に際しては、特に、内容が最新の状況を記述するものであるか否かに注意を払った。

21世紀に入ってから、日本では、大きく変化する経済環境に対応するために、まず、企業にかかわる法体系の大きな改正が実施された。これまで商法で規定された会社に関する条項は、独立した会社法として、2006年から施行された。これにともなって、企業形態の区分が大きく変化し、コーポレート・ガバナンスの仕組みも新しくなった。また、新会社法の施行とともに会社計算規則も改正され、財務諸表に関しても変更が加えられた。あるいは、企業などの破産や再生に関しても新しい法制が施行されている。

 現実の企業に目を向けても、金融機関の再編成、公企業の民営化をはじめとして、事業基盤の強化のための企業合併など、日本の企業は、大きな変容を遂げつつある。一時は日本企業の競争力の源泉と見なされていた日本的経営についても、雇用形態や賃金形態に関して、これまでのあり方を改変する試みが加えられつつある。

 いろいろな面で、日本企業とその環境は、大きな変革期にある。監修者は、本書が、この変容を、いわばリアルタイムで記述していることを確認した。もちろん、今後もこの変容は続くであろうが、経済法・会社法の面からは、しばらくの間は、本書に記述された新法制が、日本の企業の法規範として機能するであろう。

 監修者としても、最新の日本商務を簡明に記述した本書は、日本の経済と企業について学ぶ中国学生諸君に有益であると確信し、本書が中国と日本の相互理解に資することを期待するものである。

                     2006年7月

 

             南開大学商学院長   李 維安

南開大学日本研究院長 楊 棟梁

東京大学名誉教授   原 朗

青山学院大学名誉教授 三和 良一

 

はじめに
 本書は、中国において経済や経営と日本語を同時に勉強している学生を念頭に置きながら、経済や経営を専門とする学生にも使用できるように編集した教科書である。これまでにも日本経済や日本経営について書かれた著作や翻訳書は数多く存在するが、日本と中国の経済・経営を専門とする研究者が、中国の学生むけに執筆した日本商務の教科書は本書が初めてではないだろうか。そのため、翻訳書では説明不足になりがちな部分を補いつつ、最新の日本企業の姿とそれをとりまく法的経済的環境を、分かり易く解説した日本商務の教科書になっていると自負している。

企業の法的環境を扱った第二章「企業と法」は、第三章「企業の経営」で扱う内容、たとえば株式会社の組みを、法的に理解しておくために設けた章であるが、法律特有の用語を多く含んでいるので、やや分かりにくい部分かもしれない。学習にしては、第一章「企業の歴史」から第三章「企業の経営」、第四章「ケース・スタディ」へと進んで、そのあとで第二章「企業と法」を読んで理解を深めるという方法をとっても良い。

 本書は、分かりい日本語で書かれているが、経済・経営関係の専門用語を用いているため、学生にとってやや難解な部分があるといえよう。そのため、本書の中国語版を同じく南開大学出版社から『現代日本企業論』という題で出版する。日本語を学んでいる学生は、日本語で本書を読んだ後、中国語版を読み理解をより深めてもらいたいと考えている。両国語版を読むことによって、経済・経営用語を理解するだけではなく、日本語と中国語の翻訳能力も養ってもらいたいと思っている。

 読者の皆さんが、日本経済・経営について理解する手助けができれば、われわれ執筆者にとってこのうえない喜びである。

                 2006年7月

                                   執筆者を代表して

                                         三和 元