父と子が語る日本経済

日米往復eメール

21cm  254ページ 本体価格 1400円

ビジネス社  ISBN: 4-8284-0984-X

 

 概要

父(マルクス好きの経済学者)と息子(ベンチャー志願でアメリカ留学中)が経済の問題をじっくり語り合ったら平成不況の出口が見えてきた!これだけは知っておきたい経済の基礎知識。

 主要目次

                            プロローグ  日本経済はなぜ弱くなったのか
               第1対話   ジャパン・アズ・ナンバーワン
               第2対話   バブルの到来
               第3対話   平成不況の正体
               エピローグ  クオ・ヴァディス・ニッポン?

 

読売新聞 短評

 マルクス好きの父と経済学者の父とベンチャー志願のアメリカの大学留学中の息子が、日本の諸問題について交わしたeメール交換記。日本経済はなぜ弱くなったのか、に始まり、バブル、平成不況今後の展開まで、複眼的な対話に妙味がある。市場原理主義に疑問を示し、日本人は平和で、環境に優しく、賢い消費者「知足人」たれという。 (2001年7月7日付け 読売新聞短評より)

 

評論家 内橋克人先生

による紹介文

「占領下研究」の第一人者の父と、アメリカの今をいきる子―海を挟み、世代を超え、電子メールに乗って熱く飛び交った「呼吸する経済論」。学生、ビジネスマン必読の教科書が本書です。(読売新聞掲載ビジネス社広告より)

 

 はしがき

 

息子が生まれたとき、いつか『父が子に語る日本経済史』を書こうと思った。J・ネルーの向こうを張るつもりはなかったが、歴史に経済史の側から近づくと、何が見えてくるかをやさしく語れればいいだろうと考えていた。しかし、経済政策史の勉強で忙しく時を過ごすうちに、息子はあっという間に成長して、ついに機を失してしまった。

いまアメリカの大学で過ごす息子との間では、日々の出来事をめぐってのメールのやりとりが重なっている。

 平成不況に沈む日本と、景気が反転してもまだ元気がいいアメリカとからでは、経済の見方が違うところが面白い。もちろん、古希も近い老学者と大学生の若者の違いはあるし、マルクス好きの老生とあわよくばベンチャーで一旗揚げようと思っている若造の違いも大きい。

 平素、日本の大学生と接して、かなり高級な経済理論はこなしていても、日常の経済の動きには、案外、疎いのにビックリすることがしばしばある。最近の日本経済の振れが大きく、変化のスピードも速いから、無理からぬところはあろうが、経済学部の学生が経済知らずでは困る。

 企業の方々と接すると、ご自分の仕事には情熱と知識をお持ちだが、少し外側の経済事情になると、これからどうなるのでしょうと心配顔になってしまう。経済大国を担う人々にしては、いささか心許ない。

 息子との交信で伝えた、経済学や日本経済についての私見や、息子の反論・反応を、読者の皆さまに読んで頂くのも、多少の意味はあろうかと本書を作ってみた。初志とは違って、『父と子が語る日本経済』になってしまったが、志したやさしく語ることはできていると思う。

 長年勤めた大学の定年も近づいて、これまでの仕事をまとめる作業と並行してのメール交換だったので、すこし、あわただしく、最後は、北欧への旅の途中で、息子とストックホルムで落ち合って、締めくくりをすることになった。旅の北限は、フィンランドの北極圏近くまでで、オーロラは見損なったが、雪原を、息子とふたり、犬ぞりで走る楽しい経験をした。

ふたりで楽しみながらつくった本なので、みなさまにも、軽い気持ちでお読みいただければ、父も子も、うれしい。

2002年4月

                              三和 良一 (父)

 

 あとがき

 

 現在、経済はものすごい速さで、変わりつつあります。この本の原稿を書きはじめた二月から、書き終わった三月の終わりの間においても、さまざまな事が起こりました。また、原稿を書き終えてから、現在までの間にも、見逃せない変化が起こっています。

例えば、金融機関の三月危機があります。いろいろ騒がれましたが、ペイオフ解禁(四月一日)までに、その影響で破綻した銀行は、中小の二つだけという事態で、予想されたような大きな混乱は起こりませんでした。しかしながら、この三月期決算では、大手の銀行すべてが、大幅な赤字決算になると予想されています。

また、四月一日には、第一勧業銀行・富士銀行・日本興業銀行の三行が分割・合併してみずほ銀行とみずほコーポレート銀行が誕生しました。ペイオフ解禁と同時という華々しいスタートをきるはずでしたが、ふたを開けてみれば、ATMの混乱や、口座引き落としの延滞などいろいろな問題が続出しています。

これらは、準備不足としか言いようがありませんが、一般市民には、このようなことで、「本当に銀行は大丈夫なのだろうか」という疑念を与えたと言えるのではないでしょうか。

このほかに、一般企業でも、厳しい決算を予想しているところが、たくさんあります。その代表的なものが、優良経営で知られているNTTです。NTTは、海外展開のための投資先の株価下落などによって、数千億円の赤字決算を強いられそうです。

これらの例が、日本経済の現状を端的に表しています。

この本が発売される五月には、企業の三月期決算が続々と発表されます。各企業の決算しだいでは、金融機関、ひいては日本経済に、大きな影響が及ぶかもしれません。ただ、どのような事になるかは、この文章を書いている段階ではわかりません。

読者の皆さまが、この本をお読みいただいている頃に、ご自身で身を持って実感されているところでしょう。

最後に、この本が出版されることになった経緯を簡単に記させていただきたいと思います。

じつのところ、原稿を書き終わり、校正を行っている現在でも、このような本を出せるようになったことが、いまだに信じられないでいます。

この本の原点は、父が、『概説日本経済史−近現代』(東京大学出版会)の改訂作業をはじめたときに、僕に、学生としての意見を求めてきたことに始まります。僕が、父の改訂構想に対して、e-mailを送ったことが、経済問題を扱った「父と子」のe-mail交換の始まりです。そのメールでのやり取りを読んだ母が、「これを出版できたらおもしろい」と言い出したのですが、その時点では、誰も本当に出版できるとは、思っていませんでした。

しかし、今年のお正月に我が家を訪れた、母の親友であり私の第二の母的存在で、フリーの編集者をしておられる小松浩子おば様にこの話をしたところ、面白いとおっしゃって、出版社への橋渡し役を快く引き受けてくださいました。その後のビジネス社との話し合いで、出版できる運びになったわけです。小松のおば様の存在なくして、この本は無かったといっても過言ではありません。

また、原稿を執筆中には中国問題の専門家であり、父の友人である獨協大学の辻康吾教授には、資料を提供していただいたり、貴重なアドバイスをいただきました。そして、ビジネス社の担当編集者である播磨谷佳子さんには、読みやすくなる小見出しを付けていただいたのをはじめ、色々な面でお世話になりました。この場をかりて、ご協力いただいた方々に深く御礼申しあげます。

また、ここまで読んでくださった、読者の皆様に、心より感謝と御礼を申し上げます。

これからも、この様なかたちで父との共同作業が出来れば幸せです。

 

      二〇〇二年四月

         イリノイ州ユーリカにて  三和 元(子)