概説日本経済史 近現代 第二版

 

A5判        280ページ     本体価格 2500円

東京大学大学出版会          ISBN 4-13-042113-1

 概要

近代資本制社会の成立から平成不況にいたるまで,日本経済の歩みをたどる.第2版では,福祉国家から市場原理主義へとその特徴を移した資本主義の変質をふまえ,バブル期以降の低迷した経済状況における金融再編・経済政策なども丁寧に解説する.

 主要目次

  1 資本制社会論
 2 幕末の経済と開港
 3 明治維新
 4 殖産興業と松方財政
 5 近代産業の発達(1)軽工業
 6 近代産業の発達(2)重工業
 7 日清・日露戦争と日本経済
 8 第1次世界大戦と日本経済
 9 1920年代
10 昭和恐慌
11 高橋財政
12 戦時経済
13 戦後経済改革
14 経済復興
15 高度経済成長
16 高度成長の終焉
17 平成不況

                                         

はじめに

 初版から10年近くが過ぎて、日本経済も、世界経済もかなり変化した。正確に言えば、初版を刊行した頃に感じられた変化の方向が、ほぼ確定的となった。1980年代から、いわゆる現代資本主義に変調が現れてきたが、初版では、まだ、それが資本主義の新しい発展の段階を示すものであるかどうかは確定できなかった。その後の経過は、福祉国家化と政府の政策介入を特徴とする現代資本主義の時代は終わり、経済活動のすべてを市場による調整に委ねようという、いわば市場原理主義が力を得る時代が到来したことを明確に示すに至った。初版では留保しておいた、資本主義の新しい変質を記述すべき時期と考えて、第2版を刊行することとした。新しい変質期に入ったとはいえ、本書が懸念する人類史の危機への対応が見えてきたわけではない。むしろ、市場原理主義が、資源の蕩尽と環境の破壊を、これまで以上に押し進める危惧が強くなった。本書の改訂を必要と感じたのは、この危惧に突き動かされてのことである。

                           20026月               

(概説 日本経済史 近現代 第二版 はしがきより)        

 

あとがき

 初版では1985年のプラザ合意前までを記述の範囲としていた.1980年代からの,現代資本主義の変調の意味を確定できなかったためである.その後の経緯から見て,資本主義が第3の変質期に入ったと判断できそうなので,改訂作業を行うこととした.改訂は,第1章の資本制社会の発展過程の記述に「第3の変質期」を加えたうえで,旧第15章の後半部を,第16章「高度経済成長の終焉」として分離して,バブル期までを記述し,第17章「平成不況」で,2001年まで筆を伸ばした.もとより,2001年時点の経済を的確に記述することは,不況の行方ひとつをとっても,不可能である.経済史の記述としては違和感を覚えながら,小泉政権の登場に,日本における「第3変質期」の特徴を感じて第17章を書き加えた.

 初版にたいしては,橋本寿朗さんから「一国経済史の観点が強すぎる」との批判をいただいた(『近代日本経済史』岩波書店).改訂に際しては,高度経済成長の終焉を,世界史的な観点から位置づけることで,橋本さんの批判に応えようとした.改訂作業を進めていたさなか,2002年1月15日に,橋本さんの突然の訃報に接した.経済史・経営史分析に新しい考え方を提起してきた橋本さんのこれからの理論展開に期待するところは大きかっただけに,痛恨の極みである.

読んで貰うことはできなくなったが,この改訂第2版を橋本さんの霊前に捧げたい.

第2版刊行に際しては,東京大学出版会の黒田拓也氏にお世話いただいた.感謝申し上げたい.

20026

(概説 日本経済史 近現代 第二版 はしがきより)