青山学院大学最終講義

最終講義は、2003年1月14日におこなわれました。 講義の映像は、CD−R(2枚)に収録してあります。 ご希望の方にはコピーを郵送しますので、お申し出下さい。

資本主義はどこに行くのか

 

1 日本経済の長期停滞 

      経済成長率の鈍化(第1図) 2000年1人当たりGDP(万ドル) 日本3.8、米3.5、英2.4、独2.3、仏2.2、伊1.9

停滞の原因 「日本病 nipponensis 」?

@ バブルの崩壊  株価崩落 '89年12月 3万8915円→'02年12月8578円 東証株価総額'89606兆円→'02248兆円358兆円減)

               地価下落 '90100'01333.1 '892136兆円→'021350兆円786兆円減)

A バブル後遺症 不良債権・債務→金融システムの不安定化・弱体化

      1995年コスモ信用組合・兵庫銀行・住宅金融専門会社 96年日栄ファイナンス  97年日産生命・北海道拓殖銀行・山一證券  98年日本長期信用銀行・日本債券信用銀行・日本リース 2000年千代田生命・協栄生命

            不良債権 '02年3月末107兆円 償却済み累計90兆円 Cf.金融機関貸出残高437兆円 GDP497兆円(2001年度)

B グローバル・コンペティションと産業空洞化第1表) 

C 設備投資の減退 ←設備過剰(稼働率指数 '90年100→'00年86

     D 消費の減退消費性向'90年75.2→'01年71.4)⇒不況⇒雇用不安(失業率'90年2.1%→'02年5.6%)⇒消費の減退 …「消費」と「雇用」の悪循環 

政策対応の効果

旧型公共投資政策の無効化 公共事業関係費'95年15兆円〜'00年11.6兆円(一般会計歳出76兆〜85兆円)

不良債権処理の失敗 「不況」と「不良債権」の悪循環     竹中ショックの効用は?

     規制緩和・民営化=市場原理の貫徹            小泉改革=緊縮政策の運命は?

    企業の対応 日本的システムからアングロ・サクソン的システムへ

会社主義の改造 終身雇用・年功賃金→労働市場流動化・能力主義  労働者の合意調達は?

      国際競争力は健在 貿易収支黒字の継続 IMD競争力調査 '93年総合第1位→'01年第26位、研究開発分

野は第2位 新技術優位 カーボンナノチューブ(発見者:飯島澄男)・新3種の神器 為替レート

 

2 資本制社会の新段階=「第3の変質期」

   @ 新しい兆候 インフレからデフレへ(第2・3・4・5図 Global Competition

            日本1998年=100 2001年: 消費者製品(財)物価96.8、加工製品輸入価格87.7、中国からの輸入額145.1

                 inflation-bustingからinflation-targetingへ

      A 福祉国家からの旋回 ←アンチテーゼ(=社会主義)の消失が加速

         市場原理主義 Market Fundamentalism→政府の機能縮小 規制緩和・民営化

          競争・利潤・経済成長至上主義 カジノ資本主義 経営者倫理の劣化エンロン・雪印食品

   B 新たな技術革新

             ME革命(=生産構造の変化FA・OA)、IT革命(=市場構造の変化 B to C、B to B)バイオテクノロジー、ナノテクノロジー

   C グローバル化と地域統合  社会主義圏の崩壊・市場経済化⇒世界市場の拡大

        EU、NAFTA(北米自由貿易協定)、LAFTA→ALADI(ラテンアメリカ統合連合)、ASEAN

       予想される結果 不平等な社会 不平等な世界 地球破壊 人間破壊 社会破壊

 

3 人類史の新段階へ

    新しい社会の理念 Sustainable Economy

    資源枯渇・環境破壊の回避(第2・3表) 経済成長の抑制 平等原理の再生 平和の達成

   新しい社会の構造

    欲望抑制機構     ⇒新しい共同体、「知足人」のすすめ

    社会的余剰の規制機構 ⇒私有制(生産手段の所有形態)の制限

    再生産の調整機構   ⇒新しい計画経済

    国際関係の調整機構(資金の配分・為替の安定・投機の規制・所得の再配分)⇒世界政府    

                                      完 (2003.1.14)

  

参考文献  馬場宏二  『新資本主義論』    名古屋大学出版会 1997年

   三和良一・元『父と子が語る日本経済』ビジネス社    2002年    

       

 

 

第一表 製造業の空洞化

(単位:1000人)

国内就業者数

海外法人従業員数

比   率

1980年

1990年

2000年

1991年

2000年

1991年

2000年

重化学工業

7170

8456

7352

1263

2097

0.149

0.285

55.0

58.1

59.6

79.7

81.5

(金属)

1983

1984

1621

156

 208

0.079

0.128

(機械)

3897

5084

4529

957

1594

0.188

0.352

軽工業

5871

6088

4979

321

478

0.079

0.096

45.0

41.9

40.4

20.3

18.5

(繊維)

1870

1707

952

155

198

0.091

0.208

(食品)

1147

1391

1469

52

108

0.037

0.074

合  計

13042

14544

12331

1585

2573

0.109

0.209

注 『概説日本経済史』第2版、223頁。イタリック数字は合計を100とする構成比。

 

第2図 アメリカの消費者物価指数 1913=100 マクミラン世界歴史統計 BLS)

 

 

 

第2表 原油・天然ガスの可採年数原油100万バレルガス10億

 

        原   油

      天然ガス

  地域・国

 埋蔵量

 生産量

可採年数

 埋蔵量

 生産量

可採年数

北米

33,346

2,621

12.7

7,042

737

9.6

  アメリカ

22,045

2,117

10.4

5,350

550

9.7

中南米

123,896

3,401

36.4

8,082

137

59.0

東ヨーロッパ

66,790

3,010

22.2

56,377

740

76.2

西ヨーロッパ

18,128

2,244

8.1

7,028

285

24.7

中東

696,261

7,582

91.8

71,356

241

296.1

 サウジアラビア

262,697

2,879

91.2

6,060

54

112.2

 イラク

112,500

947

118.8

3,109

3

1036.3

 イラン

99,080

1,304

76.0

26,600

69

385.5

 クエート

15,207

711

21.4

25,768

10

2576.8

アフリカ

92,797

2,418

38.4

13,107

133

98.5

アジア・太平洋

44,980

2,631

17.1

15,225

290

52.5

 中国

24,000

1,203

20.0

1,560

30

52.0

  合  計

1,076,198

23,907

45.0

178,217

2,563

69.5

注: OPEC Annual Statistical Bulletin 2001。

2001年末の確認埋蔵量÷2001年生産量=採可年数。

 

第3表 穀物生産とエネルギー

日本の米生産エネルギー収支

世界の穀物生産

投 入

(労働力)

(機 械)

(肥 料)

産 出

収 支

エネルギー使用量

1950年

  9,150 

1,120 

1,370

2,400

11,600

2,450

0.44

1970・74年

47,070

440 

15,950

9,820

17,700

-29,370

0.89

 1985年

1.14

  日本は、1950・74年。1ha当たりで、単位は1000キロカロリー。宇田川推計(『概説日本経済史』第2版、232頁)。

世界は、1950・70・85年。穀物1トン当たり石油換算エネルギー(単位:バレル)。『データ世界経済』56頁。