人類史の危機にのぞんでともに知的営為を

経済学部教授 三和良一

 卒業おめでとうございます。まなびやでの4年間に、ずいぶん知的に成長されたことでしょう。皆さんのこれからの社会生活が、一層充実したものになることを期待します。

 じつは、私も皆さんと一緒に卒業します。皆さんの10倍、つまり、40年間、経済学部に在職して日本経済史などの講義を続けてきましたが、3月に68歳となりますので定年退職します。ずいぶんたくさんの学生諸君を送り出してきましたが、皆さんが最後の学生です。

 はたしてどれほど皆さんの知的成長のお役にたてたか、ふりかえると、いささか自信がなくなります。私の講義やゼミは、歴史的事実を覚えてもらうのではなく、皆さんが今どのような歴史時間を生きているかを考えてもらうことを目標にしてきました。なにしろ変化の速い時代ですから、まごまごしていると、つい時代に流されてしまいますからね。

 1970年代後半の講義からは、現代が人類史の危機の時代であることをお話しし、人類が資源の濫費と環境の破壊の結果、この地球に生存できなくなるというような結末にいたらない道を一緒に考えようとしてきました。しかし、危機は去らないどころか、ますます深刻になってきたようです。

 ヘッジファンドで大儲けをしたジョージ・ソロスですら「市場原理主義」と呼んで、それを規制することを提唱するほどの市場中心型経済が、グローバル・スタンダードになってきました。20世紀を特徴づけた「福祉国家」の影はどんどん薄くなっています。

 有限な資源や環境を、利益追求を至上の目標とする私企業の市場での自由な活動に委ねておくとすれば、その涸渇や破壊のスピードは、ますます速くなりそうです。

 人類は「甘口ワイン」型でほろびるか、「辛口ワイン」型でほろびるか、というブラック・ユーモアが、現実味をおびてきます。つまり、糖分を食べてアルコール分を排泄するアルコール酵母は、@糖分(資源)がなくなって死滅するか、Aアルコール分(環境)が強くなりすぎて死滅するかのどちらかです。@のケースならば「辛口」、Aのケースなら「甘口」のお酒ができるわけです。

 地球の限りある資源と環境のわくのなかで、人類がながくしあわせに暮らせるような経済社会を、新しく創らなければいけませんよね。

 青山学院大学で、知的な成長をとげた皆さんとは、卒業してからも、この人類史の危機を回避できるような社会創りをめざした、知的営為を一緒に続けていきたいと願っています。さあ、一緒に!