北京滞在記12月 その2

12月6日

 天気は良いが、一昨日からの風邪が抜けないので散歩はやめる。

 「はしがき」の前半が終わったので、メールに添付して加藤に見てもらうことにする。

 昼は、元の手製ニョッキ。意外に美味しい。

 中島みゆきを聴きながら、午後も書き続けて、ひとまず完成させた。まだ未完の論文の紹介もしたのだから、いずれ修正することになるだろうが、とりあえず皆さんに検閲を頂くべくメールで送る。杉浦くんに送った分は、ボックスが一杯で帰ってきてしまった。これはいつものことだ。

 400字で30枚近くになったから、「はしがき」というのも変な感じになった。扱い方を考え直した方が良さそうだ。

 恵子が利客隆スーパ−にいって、烏骨鶏を一羽買ってきた(20元)。夕食は、この水炊き。皮ばかりか肉の表面も黒く、すこし気持ちが悪い感じだが、味はすこぶる良い。

 BSテレビで、上海の若手建築家の優秀賞コンテストを観た。映し出される上海の浦東新区の開発ぶりには驚かされた。数年後には森ビルが世界最高のビルを建てるらしい。里弄(リーロン)という上海独特の低層集合住宅の特徴を再開発の中で残していく設計をした女性建築家が銀賞を受けた。北京の胡同や四合院の雰囲気を残すような再開発は、たぶん無理なのだろう。

 

12月7日

 だいぶ風邪は良くなったが、もう一日散歩は見送る。

 オートミールの朝食。

 新聞は、ロシアの鉄道爆破事件がトップ。並んでは、北京オリンピックのロゴ問題の記事。オリンピック北京組織委員会は、2008年のロゴマークの踊る北京を商標登録したが、ある国内会社が、ロゴと同一のエンブレムのデザイン特許と商品化権を申請した。申請が認可されると委員会が踊る北京の特許使用料を払う羽目にもなりかねないので、大問題になったらしい。ちょっと普通では考えられない問題の出方だが、知的所有権の保護をルールとして確立しようとしている中国では、この問題もルールに基づいて処理しなければならないところに悩みがあるわけだ。踊る北京のデザインは、「文」の字を基礎にして人が踊っているような形。

 トヨタが新車の広告で深謝した話。日本でも報道されたように、トヨタが中英合弁の会社に委託して作成したプラドとランドクルーザーの広告が、中国を侮辱したとして非難され、トヨタが謝罪した。ひとつは、ランドクルーザーが故障した中国製トラックを牽引する図柄で、露骨ではあるがさしたる意味はない。もうひとつは2頭の唐獅子がプラドに敬礼して「尊敬すべし」と言っている図柄。中国では国のシンボル的存在の唐獅子が、日本車へ敬礼するのだからそもそも問題ではあるが、さらに、この唐獅子を蘆溝橋の欄干に並ぶ唐獅子と重ね合わせると、19377月の日本の侵略開始と共鳴するから、その暗喩は極めて衝撃的になる。天津に大型工場建設をはじめた企業としては、うかつなことだ。

 10時過ぎに潘家園古文物市に出かける。バスで3環を北西の端から南東の端まで走って@4元。先日、李先生に連れていってもらった時には見られなかった店も回った。実に多種多様な品物がならんでいて面白い。古い椅子の背もたれの彫刻部分を目当てにいったのだが、今日は見あたらなかった。持ち帰れればインテリアに使える欄間やレリーフ、透かし彫りが沢山あるが、荷物になりそうで買う気はしない。結局、なにも買わずに帰りのバスに乗る。2階建てバスで、今度は@3元。運行会社によって価格設定が微妙に違うようだ。

 双楡樹で降りて、利客隆でワインと食品を購入。成都小吃で包子と餃子を買って、部屋で遅い昼食。

 長すぎる「はしがき」を序章にした場合を想定して、短いはしがきの草案を書く。

 夕食はカボチャのほうとう。ソーセージや肉加工品も食べるが、ニンニクが利きすぎているのが問題点。

 

12月8日

 散歩に行こうとしたら、まだやめた方が良いといわれて中止。李先生ご推薦の黒砂糖入り生姜湯を飲んでいたら良くなった。SARSに効く漢方薬の成分は生姜だったという研究もあるくらいだから、生姜は効き目があるのだろう。

  朝は、お粥。昨日買ってきた腐乳はすこし辛いが味は良い。豆腐の発酵食品が日本には何故ないのだろう。チーズに相当する蛋白発酵食品だが、日本では、フナ鮨くらいしかない。

  新聞は、温首相訪米特集を別刷りにして、中米協力関係の強化をうたっている。しこりになっていた鉄鋼関税の撤廃をブッシュが発表したので、話し合いの環境は改善されたわけだ。貿易問題と台湾問題がメインイッシュー。

  本紙のトップは人民代表の選挙の記事。記事の見出しは「北京市民は広い投票選択権を得た」。次の水曜日が北京の投票日になっている。北京市の有権者は790万人で、3年任期の市人民会議代表4403名を選ぶ。2326の選挙区で、総定員より3050%多い数の候補者にたいして直接投票が行われる。候補者は、立候補制ではなく有権者グループ単位が選ぶ。日本学研究センターも、北京外国語大学の下部単位になっていて、センターとしての候補者を数名、有権者の話し合いで選んで外国語大学に推薦する。外国語大学では、学部などの他の下部単位から推薦された候補者も含めて、話し合いで、大学としての候補者を決める。多分、大学が属する選挙区の候補者リストに載るのだろう。政党からの候補者も選ばれる。今回の選挙からは、大学のような組織推薦候補者、政党候補者のほかに、独立候補者もリストに載る。独立候補者は、10人以上の有権者のグループが指名した人物というルールらしい。北京では、組織・政党候補者の数を、代表定員の20%以内に制限していると書いてあるから、独立候補者が多くなるのだろうか。深セン市の選挙では、独立候補者が党・組織候補者を破って当選したようだ。地方代表の上の階層、特別市・省・自治区の人民代表は、直接投票ではなく、地方代表によって選出される。中国的民主主義化だ。

  日本関係は、企業が先行きを楽観視し始めたという記事。太平洋戦争開戦日は、ここでは無関係だ。レノンの命日であることも同様。

  お昼は炒飯。

  授業の日程を少し変える。2年生の修士論文についての時間をつくることにして、講義内容を調整。レジュメをつくる。

  夕食は、ローストビーフ。小さい塊をトースターで焼いた。かなり堅くて超薄切りにしないと食べにくい。この国の牛は、運動していて筋肉質なのだろうか。

 

12月9日

 久しぶりに双楡樹早市へ。基礎野菜、梨、ミカン、うどん、卵を購入。重い袋を担いで、成都小吃で包子と餃子。

 送迎車に乗りきれないのでタクシーでセンターへ。2年生の修士論文の指導。WQさんのテーマが絞り切れていないので、相談に乗り、あとの3人は、元が教員室のパソコンで、資料へのアクセスなど指南。なにしろ、センターにある立派なパソコン室は、いまだに稼働していないので、皆さん寄宿舎から電話線で繋ぐ始末。これではラチがあかない。どうやら、来週あたりからは使用可能になるらしいが、ハコモノ先行型の悪い癖は、政府援助でも出てきてしまった恰好だ。

 時間がかかって、帰りもタクシー。うどんで昼食。

 新聞は、温首相訪米記事がトップで、アナン事務総長との写真が大きく載っている。ほかは、無人月ロケットを3年以内に打ち上げる話、クロコダイル・マーク係争の話が一面記事。あまり面白い記事はない。

 3年生の修士論文を読み始める。文章は上手だ。

 恵子たちが利客隆スーパーで買い物をしてきた。土鍋に火鍋材料を入れたパックを9.5元で買ってきた。深さ18cmほどの立派な土鍋で、単体で買えば20元くらいはしそうなもの。鍋材料は、野菜、肉団子、タコ、貝、蟹足カマボコ、スープで、これも単体では8元くらいで売っている。合わせてこの値段とは不思議だ。

 本当に使える鍋かと、弱火にかけて様子を見守ったが、ひびも入らず、ちゃんと調理できた。日本にはこのような深鍋型の土鍋はないから、持ち帰ろうかとも話す。

 

12月10日

 小雪が降ってきた。フードをかぶって理工大に出かける。焼き餅を買ってから、雪に備えて豚バラを仕入れて帰る。野菜と果物を売る半露店は冬なので店じまいしたらしい。あの商人達は、冬はどうしているのだろう。

 新聞トップは温ブッシュ会談。ブッシュが台湾でのレファレンダムに明確に反対を表明したので温首相の訪米は大成功だ。あとは、貿易問題。二人が肩を組む写真は印象深い。ブッシュの方がすこし背が高いが、振る手は温が上。いずれ、中国はアメリカと対抗する世界勢力になるだろう。

 国際欄では日本のイラク派兵決定を大きく取り上げている。国内の反対が強いのに決定が行われたとの論調だが、コメントは抜きの客観報道。反対デモの写真を載せている。英米のイラク侵攻の正当性を認めると派兵は不可避になるのだし、日米関係からは正当性は認めざるを得ないことになったのだから、派兵決定は当然の帰結だ。平和憲法理念を掲げ続けたオタカさんの姿勢は正しい。平和理念抜きの復興支援は、侵略・占領のお先棒担ぎに過ぎない。テロ報復に備えて、国内の管理統制が強化されると、アメリカ並みの人権無視・管理国家になるのがオチだ。昨日の朝日新聞は、イギリスで、指紋・虹彩を登録したICチップ付きの身分証明書の導入が行われることを報じていた。未来小説ばりの管理国家の足音が聞こえる。

 トラが高速道路を散歩した話。瀋陽で展示された東北トラたちが、ハルビンに帰る途中、トラックに積んだ檻を破ってしまった。最大のオスHuishan Kingが飛び出したが、他の3頭は檻に残った。Kingはそのまま高速道路を散歩。駆けつけた飼育係が麻酔銃で眠らせて収容して大事にはいたらなかったとのこと。なぜ高速道路から出なかったのか、他の3頭はなぜ外に出なかったのか、不思議な話だ。

 元の作ったパスタで昼食。

 送迎車でセンターへ。明日からの修士論文試問会について、徐先生から説明がある。合格基準について伺うと、日本と同水準だが、日本に留学している院生を念頭に判断する方が妥当で、博士後期進学能力の判定ではなく、修士終了の認定とのこと。なかなか微妙な基準だ。

 送迎車で帰って、修士論文を読む。担当する3人、3様だ。

 夕食は、ローストチキン。若鶏の小さいのをトースターで焼く。時間はかかったが、上手にできた。中国風焼き鶏の風味とは違って、さっぱりしていて美味しい。一時帰国なさった守屋先生からいただいた納豆でご飯。久しぶりの味。ベトナムにある納豆が、なぜ中国では定着しなかったのか不思議だ。何でも食べる中国人にして納豆はちょっとという日本通が多いからおかしい。納豆に生卵を入れてご飯にかけるのが好きともなれば、大日本通だ。ここにも新鮮な卵はあるのだが、生ではだめなのだろうか。試してみたいが、当たりでもしたら物笑いの種だから敬遠しているのだが。

 

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