北京滞在記12月 その6

12月26日

 調子がいいので恵子と双楡樹早市に買い出しに行く。ジャガイモ、タマネギ、インゲン、ほうれん草、百合根、しいたけ、卵、うどん、ザボンと包子・餃子を買う。となりの市場も見学。冷たい風に当たったせいで、また咳が激しくなってしまった。

 新聞トップは、重慶北東337kmのガス田の硫化水素噴出事故を写真入りで報道。191人が死亡、600人以上が入院という大事故。有毒ガスは点火して燃焼させているが、噴出は止まっていない。炭鉱事故など、地下資源関係の事故は数が多い。

 今日は毛沢東生誕110周年で、湖南省韶山の生家のにぎわいが紹介されている。北京の記念堂へは中高年の参詣者が多くて若者は少ないという観察への反論もあり、毛沢東語録に励まされるという20代の若者の発言もある。かつての神格化は影を潜め、功績と共にマイナス面も認める論調だ。「毛は世俗世界に戻った」という記事もある。普通人である毛は、それなりの過ちも犯したというわけ。偉大な人物だっただけに間違いを犯した時の影響も大きいとは郭先生の言だ。

 腐敗幹部の続報。11月までに県・中央政府幹部13人が処分されたが、これはかつてない大きな数で、腐敗追及の政府姿勢の強さを示しているという。高度に効率的な市場経済への移行途上の中国には、規則や規制におおくの抜け穴があって金銭で特権を売買する余地があり、国有企業改革、金融業務、開発計画、用地処分などは、腐敗の温床になりやすいと指摘している。「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対的に腐敗する」とは名言で、権力のヒエラルキー構造が存在する場合の腐敗防止は理論的には不可能なのではなかろうか?大衆に奉仕する幹部像を、この急激な市場経済化の流れのなかで求めるのは、かなり無理な話だ。監察制度を強化するしかなかろうが、濱の真砂を相手の監察は超管理社会を招来するし経済的負担も大きい。コスト・ベネフィット原則で、ほどほどにやるしかないだろう。まずは、司法部門の腐敗を最小化しないと、法治国家にならない。裁判が金銭で左右されるなど、信じがたい現状は、法への信頼を大きく損ねている。

 昼はカレーうどん。

 咳がおさまらず、腹筋が痛くなってきたので、アミノバイタルを服用して、昼寝。

 夜はトンカツ。

 BSで冬のソナタの最終回を観る。ストーリー展開に不自然さが目立つシナリオだった。若い世代が純愛で、父母の世代が自由恋愛とは。

 

12月27日

 咳がとれないので散歩は中止。ホットケーキの朝食。

 上田論文改版を読む。なかなかの出来だ。EMSで出版会から初校ゲラが届いた。賀状代わりの仕事依頼で申し訳ないと池田さんは書いているが、こっちが急がせているのだから仕方がない。

 恵子達はお土産の買い出しに前門方向へ出かけた。ベッドで、杉浦論文改版を読むが、歯ごたえがあって、つい、うとうと。

 卵うどんで昼食。

 樋口先生から督促が来たので、センター通信に載せる離任の言葉を書き始める。「北京の140日」と題して、講義の姿勢が、ひとつの贖罪であったことを書く。

 3時頃、恵子たちが帰ってきた。こまごまと買い整えたようだ。あいかわらず、価格設定の奇妙さに感心している。

 BS7時のニュースで、広州市でSARS患者が出たことを告げている。まだ診断は確定していないようだが、今後どうなるか心配ではある。

 ハンバーグの夕食。買い物で疲れた恵子はブランディでご機嫌。こっちはまだ飲めないから、いつもとは逆転した構図だ。

 体温を上げると咳が出るので、シャワーを浴びる。ここの風呂は、ロシアサイズなのか、排水口をタオルで塞いで横になると、ゆっくりお湯に浸かれるので気持ち良いのだが、今日は我慢。

 

12月28日

 まだ散歩に出る気はしない。賓館内のスーパーで、フランスパン、クロワッサン、チョコデニッシュ、牛乳を、事務室で水を買ってきて朝食。

 新聞1面は、イランの地震と重慶のガス噴出事故を大きく報道。2面には、26日に人民大会堂で開催された共産党中央委員会主催の毛沢東生誕110周年記念行事の記事。胡主席らが参加し、記念堂にも参詣した。記念コンサートも行われたようだ。今年は、毛沢東に関する本が70種類も発行されたとのこと。

 ビジネス面には、経済ジャーナリストとエコノミストが選んだ今年の10大経済ニュースが出ている。第1位はSARS流行にもかかわらず成長率は8.5%を確保したこと、以下、Aはスイスユニオン銀行と野村証券が初の証券業務許可を得たこと(5月)、B三峡ダムの貯水と発電開始(6月)、C政府が香港・マカオ政府と経済パートナーシップ協定を締結(6月・12月)、D各地の電力・石炭・石油不足(2003年後半期)、E温首相の人民元安定優先発言(8月)、F東北重工業の再生戦略決定(9月)、G共産党中央委員会の社会主義市場経済改良コミュニケ発表(10月)、H国有企業再編方針の明確化(12月)、I800万人の雇用を創出して都市登録者失業率を4.5%に抑制(12月)。

 今年、中国の一人当たりGDP1000ドルを越えるとの記事。平均の話で、農民所得は300ドルだから、格差は大きく、この対策が今後の大きな課題と書いている。2020年には3000ドルにまで高めることが目標。3000ドル×13億人=3.9兆ドル、日本の1998年頃の水準だ。日本に次ぐ第3の経済大国になるだろう。

 恵子たちは食材の買い出しに出かける。2年生の指導記録を書く。後任者に残して指導の参考にする意図で作成を要請された。ついでに1・2年生の成績簿も記入する。来年度からは、入学者の中から日本留学できる者を選抜することになるようだが、今年は全員留学だから評価は気楽にできる。

 昼は、包子とサンドイッチ。

 昼寝。机の周りの書類の山を片付けて、持ち帰るものを選び出す。そろそろ帰り支度だ。

 本の部・章のタイトルを変えることを考えて、池田さんにメール。もう仕事納めだろうが。

 夕食は、シタビラメのムニエル、スペアリブのロースト、切り干し大根煮物。ソールにしてもスペアリブにしても、素材のうま味が日本ものにくらべて劣る感じだ。

 

12月29日

 まだ散歩に出る気はしない。賓館内のスーパーで、フランスパン、クロワッサン、チョコデニッシュ、牛乳を、事務室で水を買ってきて朝食。

 新聞1面は、イランの地震と重慶のガス噴出事故を大きく報道。2面には、26日に人民大会堂で開催された共産党中央委員会主催の毛沢東生誕110周年記念行事の記事。胡主席らが参加し、記念堂にも参詣した。記念コンサートも行われたようだ。今年は、毛沢東に関する本が70種類も発行されたとのこと。

 ビジネス面には、経済ジャーナリストとエコノミストが選んだ今年の10大経済ニュースが出ている。第1位はSARS流行にもかかわらず成長率は8.5%を確保したこと、以下、Aはスイスユニオン銀行と野村証券が初の証券業務許可を得たこと(5月)、B三峡ダムの貯水と発電開始(6月)、C政府が香港・マカオ政府と経済パートナーシップ協定を締結(6月・12月)、D各地の電力・石炭・石油不足(2003年後半期)、E温首相の人民元安定優先発言(8月)、F東北重工業の再生戦略決定(9月)、G共産党中央委員会の社会主義市場経済改良コミュニケ発表(10月)、H国有企業再編方針の明確化(12月)、I800万人の雇用を創出して都市登録者失業率を4.5%に抑制(12月)。

 今年、中国の一人当たりGDP1000ドルを越えるとの記事。平均の話で、農民所得は300ドルだから、格差は大きく、この対策が今後の大きな課題と書いている。2020年には3000ドルにまで高めることが目標。3000ドル×13億人=3.9兆ドル、日本の1998年頃の水準だ。日本に次ぐ第3の経済大国になるだろう。

 恵子たちは食材の買い出しに出かける。2年生の指導記録を書く。後任者に残して指導の参考にする意図で作成を要請された。ついでに1・2年生の成績簿も記入する。来年度からは、入学者の中から日本留学できる者を選抜することになるようだが、今年は全員留学だから評価は気楽にできる。

 昼は、包子とサンドイッチ。

 昼寝。机の周りの書類の山を片付けて、持ち帰るものを選び出す。そろそろ帰り支度だ。

 本の部・章のタイトルを変えることを考えて、池田さんにメール。もう仕事納めだろうが。

 夕食は、シタビラメのムニエル、スペアリブのロースト、切り干し大根煮物。ソールにしてもスペアリブにしても、素材のうま味が日本ものにくらべて劣る感じだ。

 

 

12月30日

 今日も散歩は見送り。2年生に最後の授業。グローバリズムは人類に幸福をもたらすか?をテーマに、戦争の原因論、デモクラシーの帝国=アメリカ、21世紀展望を話す。今回の日本学研究センターと南開大学日本研究院の講義を通して、現代が人類史の危機の時代というメッセージは伝わったと思う。市場経済の下の経済成長を続ける中国で育つ若者たちには、感覚的には分かりにくいメッセージだろうが、知的に優れた人たちだから、論理的には理解してくれた。ささやかな波紋だが、なにかが残ることを期待しよう。

 帰宅して天ぷらうどんの昼食。午後の便でセンターへ。1年生の修士論文テーマについて相談に乗る。元は2年生のパソコン相談。ZYさんは、平成不況下のマネーサプライ問題に関心がある。グロ−バリズム下のデフレ現象、BIS規制の影響などを説明。HHさんは、日本人の宗教姿勢、伝統文化教育、ポップソングを通してのカルチュラルスタディなどに関心。日本人の宗教性の浅薄さ、現代人のココロのもろさなどを話す。浜崎あゆみは分からないが、中島みゆきの歌の分析は面白かろうとも。手持ちのCDを社会研究室にプレゼントすることにする。HQさんは、日本の教育問題。高等教育と外国語教育に関心。単一言語民族で平板・単純な発音の日本語を使う国民を相手にした外国語教育のまずさ、基礎的には日本の外交自体の欠陥を指摘。変わりつつある日本の大学のあり方をテーマにすることの可能性も話す。ZSさんは日本的経営。労働者の効率的な搾取方法を研究するのでは主旨に反するだろうから、人間らしい生き方が労働の場で可能かどうかという観点からのアプローチを勧める。

 終わってから、皆で徒歩、外大西裏の天外天へ。社会コース全員12人とわれわれの15人が1卓を囲んで楽しく会食。同じチェーンでも双楡樹店とはメニューが違って、ピラミッド型のバラ肉料理は無かった。3年生の訪日体験話、料理の話など、皆、達者な日本語の使い手だ。日本では定番のデザート、杏仁豆腐は、ここには無い。1・2年生は知らないし、3年の皆さんは日本に行って初めて食べたという。香港系のデザートなのか?

 食後、元はまたセンターでパソコン指南。

 

12月31日

 恵子たちが双楡樹早市に買いだし。年賀メールの原稿を作る。

 成都包子・餃子で朝食。昨日の新聞のトップは腐敗幹部に死刑判決。安徽省副知事だったWang Huaizhongは、517万元の賄賂を取り、480万元の不法蓄財をしたかどで裁判に掛けられたが、有り金残らず使って検察官の買収を図ったという。安徽省人民代表会議副議長のLu Xianningも同様に裁判中。62万ドルの賄賂、58万ドルの不法蓄財で死刑という判決をどう見るかは立場によるだろう。日本的には考えられないことだが、このくらいの厳罰が必要なほど、腐敗は蔓延していると言うことだ。今日の新聞の続報では、Wangが賄賂をとりながら派手なプロジェクトを立ち上げて上層部の評価を獲得して昇進したことを報じて、人民に役立つのではなく上層部を喜ばせる行為をした人物が評価されるシステムが問題としている。有効なチェックができなければ、彼が最後の人物ということにはならないだろうと書いている。

 トヨタ、フォルクスワーゲン、GMが自動車ローンに進出する。中国銀行監督委員会が申請を許可したので、来年後半から業務を開始するとのこと。従来も商業銀行の自動車ローン制度はあったが、公用車が多いこともあって利用率は20%以下と低かった。大手自動車企業のローン進出で、モータリゼーションはさらに加速することだろう。

 今日の新聞のトップは、国家発展改良委員会が重点技術発展部門のリストを発表した記事。農業関連を含んでエネルギー、バイオ、情報、交通などの技術発展に力点が置かれる。台湾の陳総統に自重をうながした日本政府の姿勢を評価する記事も一面。国内記事では、南水北通の中央水路の北部、北京・石家荘間が着工したこと、日本の援助で山西省の女性再教育が行われ雇用が増えたこと、SARS患者発生で中国株式市場が失速したことなど。

 昼食後、バスで国家図書館にでかける。正面から左手に回ったところが入口で、入館は手続き不用。2階に検索端末とカードボックス、貸出窓口がある。ジャンルごとに公開配架された部屋があるので、中央貸出口は空いている。正面奥の展示室で、法帖と敦煌文書を見る。宋代から民国期までの拓本帖がケースに並んでいる。有名書家の所蔵品が図書館に入っているようだ。梁啓超の旧蔵本もある。点数は多くないが、見ごたえがある展示だった。大晦日だが、図書室には沢山の人が来ている。蔵書内容を検索したいと思ったが、入力できないので諦める。1階には書店があって新刊書やCD類を売っている。

 バスで帰宅。風もない穏やかな年越しだ。

 紅白歌合戦を見ながら年越しそば。元は、守屋先生の年越しパーティに。

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