政治経済学・経済史学会秋季学術大会コメント

         20051030

                              政治経済学・経済史学会秋季学術大会

                                         於:新潟大学

                        青山学院大学名誉教授 三和 良一

共通論題

20世紀の戦争と社会変動経済社会秩序と国家介入

 

コメント 2.20世紀を分析する視座

 

1.共通論題と加藤榮一

『ワイマル体制の経済構造』(東京大学出版会、1973年):全体戦争も資本主義の危機のひとつであり、ドイツ革命が、国家独占資本主義の起点になりうる→「早生的」国家独占資本主義。→同権化論。

「福祉国家と資本主義」(工藤章編『20世紀資本主義 II』東京大学出版会、1995年):

前期資本主義・中期資本主義・後期資本主義。各期資本主義は、<萌芽期>・<構造形成期>・<発展期>・<解体期>を経る。戦争・革命・恐慌が、<構造形成期>をもたらす。

   (三和「宇野発展段階論の可能性―馬場宏二説と加藤榮一説の検討を通してー」『青山経済論集』51-420003月、参照。三和ホームページ http://www.miwa-lab.org 公開論文欄に掲載)

2.共通論題の概念構造

「経済」「社会」「国家」の概念規定とその相互関連。

Cf. 唯物史観:土台と上部構造・意識形態

T.パーソンズ:行為システム(パーソナリティ・システム、社会システム、文化システム、行動有機体システム)とサブ・システム(A・G・I・L)の設定。部門間相互交換メディア(貨幣・権力・影響力・価値コミットメント)の想定。

N.ルーマン:パースン・システムと社会システムを区分。社会システムの部分システム(経済・政治・科学・宗教・教育など)区分。諸システム間の相互浸透によるシステム統合。

「経済」「政治」「社会」「文化」の4時空分節化試論

(三和「経済政策史の可能性」『経済政策と産業』年報・近代日本研究13、山川出版社、1991年。三和ホームページに掲載)

3.20世紀資本主義の普遍性と個性

共通論題構成メンバーの「20世紀資本主義・現代資本主義」観の異同。

20世紀資本主義・現代資本主義」は「普遍性」・「一般概念」・「資本主義の発展段階」として把握できるのか?

(三和「資本主義の発展段階―経済史学からの接近」『資本主義はどこに行くのか』東京大学出版会、2004年)

各国の「20世紀資本主義・現代資本主義」の「個性」は、何によって規定されているのか?

4.政策と政策決定過程

共通論題諸報告の、政策提案の背景の解明は、興味深い。

政策決定過程の分析方法を明確にすることは経済史分析に有用ではないか?

(三和「経済政策史のケース・スタディ―松方財政―」、『青山経済論集』54-3、2002年。三和ホームページに掲載)

5.戦争「と」社会変動

戦争を「与件」として「結果」としての社会変動を把握するのは、ひとつのアプローチである。

社会変動を「与件」として、戦争をその「結果」として把握するアプローチもあり得る。

戦争と社会変動の相互関連を把握する作法も、可能ではないか?

戦争原因論の経済史からの接近方法は?

6.資本主義批判の視座

「武力によるアメリカの世界支配はその正統性を問われることなく,グローバリゼーションを推し進めて世界的規模で福祉国家システムの解体を促している.こうして世界は正統性なき統治とカジノのように不確実な経済の時代をなお当分の間生きていかなければならないのである.」(加藤榮一「二十世紀福祉国家の形成と解体」『資本主義はどこに行くのか』) 
20世紀型の資本主義が終焉し、新しい資本主義の時代が始まったという認識は共通であるが、転換期の只中にある以上当然のこととはいえ、新しくつくり出される社会経済の形質について共通の明確な構図を描き出すには至っていない。ただ少なくともいえることは、現在の変化のトレンドがこのまま持続し、あるいは加速して行けば、市場経済の「悪魔の碾き臼」K.ポラーニ)が人々の生活を踏み砕き、地球環境を破壊して、人類がこれまで経験したことがないような不確実な状況が招来されることは間違いなさそうである。われわれは荒野に呼ばわる預言者ではないので,人々に悔い改めよと説くつもりはないが,幸いにして本書が多くの読者を得て、その厳しい批判となにがしかの共感を享受することができれば、それを土台にして、優勝劣敗を唯一の正義とし、際限のない欲望を生み出すマモン信仰に支配された世界的時流に抵抗する対抗的理念、対抗的文化を形成する手掛かりを探り当てたいというのが、本書を刊行した7人の共通する願望である。」(「はしがき」同上書)

Ecological Footprint:人間が消費する生物資源を供給する土地面積と化石燃料の排ガスを吸収するに必要な森林面積の合計。1961年には、地球の供給可能量を1として0.5程度、1980年代後半に1を越え、2001年には1.2に達した。(Global Footprint Network , http://www.footprintnetwork.org 試しに:Your Ecological Footprint http://ecofoot.org)

石油の採掘可能年数:既発見埋蔵量を年間採掘量で除した数値。46.5(OPEC統計、2003)

先進諸国では、マイナス成長が必要。

マイナス成長は、どのように実現できるか?

経済史学による資本主義の高度経済成長体質の歴史的解明は、マイナス成長への道を示唆する。

(三和「資本主義経済は何故速く成長するのか−資本主義は何なのか−」、『青山経済論集』53-2、2001年。三和ホームページに掲載)           以 上

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